金融緩和の度合い
金融緩和の度合いの調整を実際にどのようなタイミングで進めていくかは、あくまで、先行きの経済・物価・金融情勢次第です。
※毎回の金融政策決定会合では、その時点で利用可能なデータや情報などから、経済・物価の現状評価や見通しをアップデートしながら、政策判断を行っていく方針です。(日本出)
一見すると、金融政策運営に関するごく当たり前の姿勢を記述しただけに見える上の記述ですが、実はこうした文章が講演などのテキストに明記されるのは意外と珍しく、しかも、記者会見で植田総裁はこれを何度も繰り返しました。
「安全運転」の記者会見で植田総裁が我々に送ったメッセージ
会見場にいた記者にしてみると、「その時点で得られたデータや情報から、毎回の金融政策決定会合で判断する」と何度も繰り返されれば、植田総裁は「安全運転」に終始し、ヒントらしいヒントは出なかったと感じてしまうのが普通でしょう。
しかし、枝葉をとって、「その時点で得られたデータや情報から、毎回の金融政策決定会合で判断する」という下りだけ続けて3回繰り返されたらどうでしょう。その言葉の裏に何か意図が隠されているように感じませんか?
記者会見では、下のような受け答えもありました。
記者:講演ではサービス価格に上昇の動きが見られているとあったが、少なくとも国内については再利上げの環境が整っているのではないか。7月の利上げ以降、物価安定の目標が実現する蓋然(がいぜん)性が高まっているかの判断において、前進は見られているのか。
総裁:もちろん、前進は見られていると思う。サービス価格については、10月の価格改定期に注目していたが、東京のデータはある程度(賃金上昇の)サービス価格への転嫁が進んでいると判断している。今週後半に出る全国のCPIを見たいと思う。
(出所)楽天証券経済研究所作成
筆者には、11月22日に発表される全国CPI(消費者物価指数)の「サービス」を確認した上で、12月のMPM(金融政策決定会合、12月18~19日)で判断すると、植田総裁が言っているように感じられました。12月追加利上げという筆者の見通しに変更はありません。
▶︎リスクマネジメント上も12月利上げの可能性が高い
リスクマネジメントの観点からも、12月MPMは利上げの可能性が高いと思われます。12月MPMは直前にFRB(米連邦準備制度理事会)の12月FOMC(米連邦公開市場委員会、12月17~18日)が開催されます。
最近の米インフレ再燃リスクの高まりを受けて、例えばパウエル議長が14日の講演で「経済は、利下げを急ぐ必要があるというシグナルを送っていない」と述べたり、サンフランシスコ連邦準備銀行の「エコノミック・レター」(18日)が、需給引き締まりが物価上昇圧力を高める方向に作用しているという分析結果を発表するなど、12月FOMCで利下げがあるかどうか不透明な状況になりつつあります。
仮に、12月FOMCで0.25%の利下げを行った場合、パウエル議長は記者会見でタカ派寄りの発言をする可能性が高く、逆に利下げしなければ米長期金利が上昇する可能性が高いため、いずれにしても円安に振れるリスクがあります。
もし、1ドル160円のような過度な円安を避けたいと日銀が考えているとするなら、12月利上げの蓋然性が高いと筆者は考えています。問題はどうやってサプライズを与えないように事前のコミュニケーションを進めていくか。12月MPMまで約1カ月。日銀高官による何らかの情報発信がまだあるかもしれません。
昨日の植田総裁の発言。
これにより円は一時的に売られる傾向だが
年末にかけて大きく上がって来れば
利上げ発表等で円買いを促してくるかもしれない。